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2011年5月 5日 (木)

ベストゲームの創始者 ノリ・ハドルさんのインタビュー

ベストゲームの創始者 ノリ・ハドルさん 
(インタビュー・文:きくち ゆみ)

 日本の環境問題や消費者問題に長く携わっている人の中にはノリ・ハドルさんを知っている人は、かなりいると思う。経済急成長と公害問題の真っ只中の1970年代、彼女は日本に4年間滞在して「夢の島」「希望との旅」「サバイバル││The Best Game on Earth」などの著作を日本語と英語で同時出版した。ノリは、当時の日本の環境運動や消費者運動、平和運動などに少なからぬ影響を与えた人であり、今これらの運動で重要な役割を担っている人たちの中には、彼女と親交がある人も多い。

 日本で彼女を一躍有名にしたのは、その東京での質素な暮らしぶりだった(当時、1ヶ月あたり100ドル程度で生活していたそう。そのうち70ドルが家賃だったので、食費・光熱費・雑費全てを合わせて月30ドル、一日1ドルしか使ってなかった。当時は1ドル=300円だったが、それでも質素な暮らしだ)。文藝春秋に「一日300円の東京生活」という記事が載ると、日本中のあらゆる新聞や雑誌から彼女へのインタビューや原稿依頼が殺到した。日本がアメリカに追いつけ追い越せと驚異的な経済成長を遂げ、大量生産・大量消費文明へとまっしぐらに進むさなかのことだ。
 これらのインタビューや記事の中で、ノリは「どうかアメリカの悪いところは真似しないで。民主主義はいいけれど、大量消費文明はだめです。日本人の中には簡素の美という、シンプルなものを美しいと思う素晴らしい感性があります。これを世界に伝えてください」というメッセージを発しつづけた。しかし、その努力は「大海の中の一滴の水のようだった」と彼女は振り返る。その後日本が向かった進路を変えることはなかった。
 幼い頃から平和な世界の実現を夢見てきたノリは、大学に入るとロシア語を勉強し、「米国の敵」「悪魔」と言われていたソビエト人たちとの交流を始める。やがて、元核兵器エンジニアで、旧ソビエト連邦の国連代表部にいたユリ・アンティポフと出会い、現在ノリが世界中に広めている「ベストゲーム」の着想を得る。ベストゲームにはゴールとルールがある。この夏、このベストゲームの手法と、日本でベストセラーになった「世界がもし100人の村だったら」「バタフライーもし地球が蝶になったら」(7月7日、八月書館発売)の2冊の本を使って、全国10ヶ所でワークショップが開催される。来日を目前にして、彼女の抱負を聞いてみた。

――ノリは日本がベストゲームを成功させるのに、大変重要な(Criticalという言葉を彼女は使う)役割を担っている、っていつも言っているけれど、それはどうしてですか?
「もちろん、どの国の人もそれぞれ大切です。でも、日本人は特に大きな力を発揮できると思っています。日本人はほんの100年前まで、海外からの輸入もなしに、信じられないような完全循環型の持続可能な社会を実現していました。確かにその頃は民主主義はなかったかもしれませんが、すべての資源を大切にし、何もかもリサイクルしていて、しかも高度な文化、高い教育水準なども達成していました。こういう国は他にはありません。その後100年間で、何もかも西洋の真似をして経済・技術大国になりました。アメリカに次ぐ経済大国ということは、それだけ沢山の資源も消費しているということで、環境問題への責任は重大です。
 私は日本人がかつて持っていた、そして今も心の中に持っているはずの簡素さの中に優雅さや美しさを感じることができる感性が、今ほど必要とされているときはない思っています。このことは、私が1970年代に滞在したときにも言いつづけてきたことですが、今でも私が日本人に言いたいことは、ほとんどこれに尽きます。環境のことを考えれば、消費文明が限界にきていることは、明白です。みんながアメリカ人のような暮らしをしたら、地球がいくつあっても足りません。私たちは大きな方向転換をしない限り、人類だけではなくほかの生命も道連れにして、破局へと向かってしまうでしょう。この方向転換の大きな鍵を握っているのが、私は日本人だと思っているのです。」

――それで、この夏、日本でワークショップをやるのですね。
 「そうです。これまで私は英語圏を中心にベストゲームを伝えてきましたが、西洋人に伝えるとき、彼らは哲学としてはベストゲームを理解するのですが、なかなか実際の生活が変わらないのです。頭ではわかっても、体と心でわからない、というか・・。シンプルに生きることがどんなに美しく、優雅であるか、ものを持たないことがどんなに自由であるかを、実体験したことがないと、それは難しいのかもしれません。
 今回、日本では10ヶ所でワークショップを開催しますが、その中でできれば、海外、特に“発展過剰”の国々に出ていって、日本人の持っている簡素美の感性を伝えてもらえる仲間を発見したいと思っています。もちろん、すでにシンプルな暮らしをしている人も歓迎ですが、これからしようとしている人も歓迎です。大きな変化をもたらすことができるのは、むしろ後者でしょう。日本で自給暮らしをしながら、いろいろな活動をしている人―ゆみ、あなたもそうですが―や、ボランティア活動や環境問題などで素晴らしいい活躍をされている人たちを講師に向かえてのワークです。」

――ええ、松本英揮さんのお話は私も楽しみにしています。彼は映写機とスライドを担いで今ヨーロッパ講演旅行をしていますから、さらにパワーアップして戻ってくるでしょう。それから、阪神大震災や地雷撤去などで素晴らしい仕事をされている山田和尚さん、くまの元気広場の中川一郎さん、地球村の上村雄彦さんや小浜由美子さんが、講師として加わってくれる予定です。
 今回は、池田香代子さんがマガジンハウスから出版して、話題になっている「世界がもし100人の村だったら」をテキストに使いますが、それはどうしてですか?
 「あの文章は、インターネットを通じてかなり長い間出回っているもので、私自身あのオリジナルバージョンと思われるものや、いろいろな変化が加えられたものを、何度となくこの何年かの間に受け取っています。それが9-11のテロ事件をきっかけに、また何人もの友人から回ってきました。日本でもそうだったようですね。あれが日本で絵本となってベストセラーになったと聞いたときは、とてもうれしかったです。あのメッセージに共感した人、心を揺さぶられた人がそれだけ沢山いる、ということですからね。
 私はあの統計の数字の中に、人類が向かうべき方向のヒントが隠されていると考えています。そして、効果的に方向を変える力があり、しかもその責任をより多く負っているのが、今一番沢山消費している人たち――つまり、まずは私たちアメリカ人、次いで日本人です。私自身は1970年代と殆ど変わらない生活をしていて、今でも自分の生活に使うお金は年間3000ドル(40万円)を越えることはまずありません。プロジェクトにはもちろん、もっと沢山のお金を使いますが、食費や光熱費など私自身が使うお金は、非常に少ないものです。私は自分の心身の健康に保つことには熱心で、そのために必要なものには投資しますが、それ以外のものには殆どお金を使うことはありません。残念ながら、私の質素な暮らしをうらやましがるアメリカ人は少なくて、多くの人が私のように暮らすには至っていません。でも、9-11以降、アメリカ人はもっと精神的豊かさに目覚めなくてはいけない、とか、今のアメリカが世界中から嫌われるのも当然だ、と発言する人たちが増えてきました。これはいい兆候です。
 日本でこのワークショップをやり、日本人のベストゲームのプレイヤーを見つけて、その人たちと一緒に来年はアメリカで日米合同のワークショップをやりたいです。今回のワークに参加した方から、来年のワークショップの参加者を募る予定です。」

――なるほど、来年はアメリカでやるのですね。それは楽しみだな。今回の日本のワークには、どんな人に特に参加して欲しいですか?
 「興味を持ってくれた人ならどなたでも歓迎です。ただ、ベストゲームのゴールに共感してくれる人、「世界がもし100人の村だったら」を読んで、何かしたい、このままではいけない、と感じた人なら、よりワークショップが有意義になることでしょう。私は、ベストゲームが上手くいくには、ありとあらゆる人――今はこのゴールやルールを聞いたとたんに背を向ける人や、馬鹿にする人なども――が大切なことを知っています。大切じゃない人は一人もいません。ベストゲームのゴールやルールを読んで、違和感を持つひとこそ、新しいヒントや見方をもたらしてくれ、それゆえ、私たちが成長するきっかけを与えてくれる人かもしれません。そういう意味で、どなたでも歓迎します。といっても、ワークショップの定員は100人なので、申し込み順で締め切ることになりますが。でも、今回のワークショップは日本で第1回目、と位置付けていて、これからも毎年継続していくつもりでいます。」

――今回ワークショップのもう一冊のテキストとして使う「バタフライ」について、話してくれますか?
 「この物語は1990年のアースデイに米国で出版されたものです。芋虫がさなぎから蝶に生まれ変わるときに起こっていることを科学的に学んだときに、その変容の仕方があまりにも自分の体験と似ていたので、これを人類の変容に例えてあの物語を書きました。最初に出版したときは、ベストゲームのゴール到達の期限を2000年と定めていたのですが、残念ながら2000年までに大きな変容は起きませんでした。でもその準備はすでに始まっていて、今私がやっていることは――これを読んでいるみなさんも、おそらくそうですが――まさに世界中の新しい考えを持った人たち、新しい生き方を求める人たちを、どんどんつないでいるのです。平和で持続可能な社会を創ろうとしている人たちを国境を越えてつなげば、いつか戦争のない世界を実現するのも夢ではないでしょう。
 この本はアメリカでじわじわと売れていましたが、9-11の事件の後、海外からも注文が来て、よく売れるようになりました。これは興味深い現象です。人々の意識は急速に変化してきていて、みんな、誰もが共感できる美しいストーリーを求めているようです。
 今世界中に広く行き渡っているストーリーは、あいつは悪いやつだから、やつが攻めてくる前に殺してしまえ、とか、十分な食べ物や資源がないから、できるだけこの村に沢山ためこもう、それで他の村で誰が死のうと関係ない、というかなり醜い物語です。
 しかし本当は、賢く分配して大切に使えば、資源も食べ物も十分にあるし、悪いやつ、嫌なやつ、というのは、実は自分の影でしかありません。私たちは違いに学び、違いを喜び、違う人や嫌いな人を受け入れて、協力していく術を身につけなくてはいけません。多様であればあるほど、協力したときに強いチームになれることを学ばなくてはなりません。人類というチームが生き残るために――もし、みなさんが本気で生き残ろうとお考えなら――新しい物語が必要です。
 今回出版される日本語版「バタフライーもし地球が蝶になったら」は、オリジナルの「バタフライ」の物語に、日本人の若いアーティストの林良樹&菜穂による新しい絵が描かれ、私とゆみの個人的な変容や奇跡の物語を加えたものです。十分な時間がなかったので出版社が見つからず、ゆみと玄が二人で自費出版することになりましたが、きっと、これでかえってよかったのだと思います。本当にこの物語を理解し、一緒に夢を描きながら行動していく人に、手から手へと渡される本になるでしょう。一緒に協力すれば、ひとりではできないことができるのです」

――ええ、私も本を自分で出版するのは、初めてなのですごく勉強になっています。こんなにお金がかかるのか、とちょっとびっくりもしています。本を作って売って、それで生活をしている方、とくに小さい出版社の方々の苦労がわかり、彼らの地道な仕事振りに改めて尊敬の念を抱くようになりました。私もいろいろな仕事をやってきましたが、自分でプロデュースするのが一番おもしろいですね。ノリには、そんなチャンスを与えてもらって、本当に感謝しています。
 「とんでもない。ゆみと玄が破産しないように、この夏日本にいったら、一生懸命宣伝しますからね」

――はい、よろしくお願いします。どうもありがとうございました。         ●

■ノリ・ハドル プロフィール
二〇一二年までに世界中に平和・健康・豊かさ・公正を実現することをゴールとした「ベストゲーム」の考案者・創始者。米国のNPO「新安全保障センター」プレジデント。人類社会の変革を描いた大人の絵本「バタフライ」(日本語版は7月7日発売予定)は九月一一日の事件以降、米国で静かなブームとなっている。7カ国語を話し、世界中に友人がいる。軍備による安全保障ではなく、真摯な外交によるグローバル安全保障を提唱し、日本がその重要な役割を担うことを確信している。 
■英語URL:http://www.bestgame.org

原文はこちらから引用→http://amanakuni.net/Namaenonai-shinbun/Namae113-yumi.html

5月 5, 2011 心と体 |

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